しこりを見つけると、誰でも嫌な気持ちになりますよね。実は私自身、30年ほど前のハワイでの学会中、口の中にしこりを見つけてひどく落ち込んだ経験があります。当時は海外の学会が最新情報の宝庫でしたが、しこりが気になってハワイを堪能どころではありませんでした。
結局、帰国後、歯医者さんではないほうがいいのではと焦り、ちょっと離れたところにある赤十字病院の口腔外科を予約しました。そこでX線を撮っていただきました。その結果、「骨瘤(こつりゅう)」という良性のものだと分かり胸をなでおろしましたが、あの時の「どうしよう」という不安は今でも鮮明に覚えています。
30年以上の腫瘍診療経験から感じるのは、犬は猫よりも体表のしこりが多い一方、良性腫瘍の割合も高いということです。ですので、何となく経過観察をしてしまうように思います。
逆に猫の場合、しこりが見つかると注意が必要です。人や犬に比べてリンパ腫などの悪性腫瘍の発生率が8~10倍高いというデータもあり、早期の確認が欠かせません。
私が獣医師になりたての頃(30年前以上前ですが)、フィラリア予防が普及してきた頃で、猫の室内飼いがはじまりました。それまでは、犬のフィラリア症や猫のエイズや白血病といった感染症が原因で、寿命は平均で5歳くらいでした。8歳を超えると腫瘍の発生率が高くなります。そのため、腫瘍診療が必要になってきました。ところが私が学生の頃は、ほとんど腫瘍の治療についての教育は受けてませんでした。そのため、ハワイで行われているようなセミナーに積極的に参加する必要がありました。
これまで、いろいろな治療を見てきました。腫瘍を大きく切除、小さく切除、抗がん剤をするしない、放射線治療をするしない、免疫療法をするしない、サプリを使う使わない。腫瘍の治療は複数ありその治療強度もさまざまです。
治療にはリスクもつきものですし、動物の状態、腫瘍の特性、飼い主さんの希望など、いくつもの要因が影響します。同じ病名でも同じ治療が正解とは限りません。
正解がどれかは一瞬で決められるものではありません。一緒に考えませんか。